純情エゴイスト

□心と体
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(なん、で…?)

突然の告白に頭は、真っ白で何も考えられない。

「ヒロさん、冗談ですよね?」

弘樹の態度から冗談ではないと分かる。

だが、それでも、その事実を野分は受け入れたくなかった。

そして…あまりの衝撃と弘樹を抱きしめているせいで、弘樹の酷く傷ついた顔と固く握りしめ爪が食い込む拳に気付く事ができなかった。

弘樹は、耳元で話す野分の悲痛な声に体を震わせる。

「冗談じゃ、ないんだ…ごめん、野分。」

最後の謝罪に力はなく、絞り出したように声はか細かった。

そうして唇を噛みしめ、余計な嗚咽が漏れぬようにと力を込めるのだった。

弘樹の握りしめた手の内側は爪が食い込み血が滲み出ていた。

それに気付いた野分は弘樹を胸の中にしまい込む。

弘樹の腕が回される事はなかったが、弘樹が顔を埋めている場所がじんわりと濡れていくのを野分は感じた。

弘樹が浮気をした事に酷く傷ついていることは野分にも痛い程わかる。

だから、あまり追及して傷を抉るようなことはしたくないと思っている。

だが・・・

「…、ヒロさん、抱かれ…たんですか?」

(これだけは、これだけは聞いておかないと・・)

尋常じゃない弘樹の様子に野分もなんとなくわかっている。

腕の中で体を硬着させ、震える声で一言呟いた時もそこまでショックは受けなかった。

ただ、苦しかった。

胸が圧迫され、弘樹を抱く腕に力を込めること以外にこの感情をどうすることも出来ないのだ。


「………ごめん、野分」


恋がこんなにも痛く苦しいものだとは知らなかった。


 
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